子供が1歳になって行動範囲が広がったのを機に(何年も前のことだが),マンションから一軒家に引っ越した.それ以来,ホームセンターにでかける機会がめっきり増えた.最初は,庭にこどもの砂場を作るのが目的だった.鍬とスコップで大きな穴を掘りぬいて砂で埋め,角材を丁寧に削って色を塗り砂場の四方に枠を作った.その外側には花壇を作った.案に違わず,こどもは大喜びだった.

この間,ホームセンターに足を運ぶたびに言語訓練教材を発見するようになった.例えば,発砲スチロール板は簡単にペーシング・ボードを作成することができる上に,とても軽くて携帯性に優れていることを知った.塩ビ板やアクリル板のコーナーは,材質,硬さ,大きさ,重さがそれぞれ異なる透明文字板の作成材料を探索するには格好の場であることを知った.

摂食・嚥下の訓練教材のヒントも,調理コーナーばかりでなく,意外にも工具コーナーなどでみつかった.「西尾式舌・口唇の自主訓練用具」もこのようにして工具コーナーで多様な種類のスプリング(バネ)を見かけたことを契機として生まれたものである.最近では,竹を素材とした和風ペーシング・ボードも遊び心から生まれた.そう,ホームセンターには言語訓練教材の素材が沢山あるのだ.

かつて前私が勤務していた病院のあるOTの先生は,休日になると秋葉原(東京)にいそいそと出かけていた.電気関連の備品を探し求めるのである.そして,上肢に運動障害がある人のための様々な電動式自助具を考案していた.当時の私の視野は狭く,こうしたマニアック趣味はSTには無縁のものと思っていた.STが作成する教材といえば,失語症のある人のためのものしか思い浮かばなかった.こう考えると,STの領域も発展してきたものだなぁ,と思う.

こうして作業を行うようななって,さらに良いこともあった.生来不器用な私ではあるが,作業をしていると心が癒される感にさらされ,ほどなくして休日の楽しみの一つとなったのである.先日あるご高名な作業療法士の先生とお話する機会があり,「作業療法とは作業をとおして人生の意義を最発見することなのよ」とおっしゃっていらっしゃった.このことばの意が,少しだけ理解できる気がした.

ホームセンターに通って,人生を味わってみませんか?

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