本研究会の活動が始動してから,約1年になる.最初の具体的活動は,2002年12月20日に東京医科大学病院において開催された関東支部第1回定例会であった.会場は130名もの多数の参加者でほぼ満席状態となった.開始前から熱気につつまれた.国内の言語聴覚士が本会に寄せる期待の大きさに驚いたものであった.
1年をふり返ると,ほぼ順調な船出であったといえる.関東支部につづいて,北海道支部,中部支部,九州・沖縄支部で定例会が開催されるに至り,会員数は全国で200名を越え,関東支部では100名に達した.各支部の活動内容は充実していた.関東支部では,発話速度の調節法など国内では先行報告が乏しい貴重なものばかりであり,参加者にとって翌日から臨床上の参考となるものが多かった.
本年はディサースリアの領域のおいて飛躍の年となることを,私は予感している.というのは,それだけの条件が整う年となるはずだからである.まず第一に,「標準ディサースリア検査(インテルナ出版)」がいよいよ春に刊行される.私たちは,ようやく,規格化された共通の「モノサシ」を持つことができるのである.これは,この領域における研究が活性化する契機となるであろう.
第二に,「運動性発話障害の臨床-小児から成人まで-(仮題,インテルナ出版)」が刊行される.これはYorkstonらが1999年に著した名著の翻訳である.今日世界に存在するディサースリア関連の書で最も新しく,かつ優れた書であるといって良いであろう.国内のディサースリアに関する技術はDarleyらが活躍した1960~1970年代レベルで停滞したままの状態が久しく続いていた.ディサースリアの評価や治療技術が飛躍的に進展したのが1980年代以降のことであることである.にもかかわらず,過去約20年にも渡って海外の専門書は1冊も訳出されることはなかったのである.私はこれを「空白の20年間」と呼んでいる.本書は,「空白の20年間」を越えて,国内における進取の精神をもつ国内のSTたちの目を覚めさせるであろう.
おそらく,今後国内のSTたちの中から,一躍「空白の20年間」を越えて飛躍する者たちが続出することであろう.私たちの研究会に属する人々の多くが,標準検査と最新の治療書を両手にして,飛躍しつづけることであろう.
不幸にも,国内の成人の言語障害の領域は著しく失語症に偏ってきた傾向は否めない.失語症の領域では1970年代半ば以降に,老研版失語症鑑別診断検査,標準失語症検査,WAB失語症検査,実用コミュニケーション能力検査といったすぐれた標準検査が次々と開発されてきたのと比較すると,この遅滞ぶりは言語に絶するものがある.その結果として,ディサースリアのある人々は適切な評価と治療を受けることができない状態が続いてきたのは現実である.失語症の領域の発展にご尽力なさった多くの方々に心から敬意を表するとともに,この領域がこれほどに遅滞してしまった責任を皆で受け止め,皆で遅れを取り戻すべく団結しよう.
私たちの願いは,ディサースリアのある人々が日本中どこの施設でも的確な治療・訓練を受けることができるようになることである.そのために,ディサースリアのある人々の目の高さで障害について考え,他方では,臨床家としてのプロフェッショナルな高い意識をそなえ,本年も自己研鑽に努めてゆきたいものである.