ヤバイほどおもしろい,第4回日本ディサースリア学術集会を直前に控えて


 ディサースリアの歴史は,「診断の時代」,「治療の時代」,「臨床方針決定の時代」の3期に区分される.第一期である「診断の時代」は,Darleyらを中心とし,1970年代に全盛期を迎えた.1980年代の「治療の時代」に入るとディサースリアの評価ならびに治療技術が進展し,一連の手法が開発された.こうした時代を経て,1990年代後半からエビデンスに基づいて臨床方針を決定する今日の「臨床方針決定の時代」に入っている.

 この「臨床方針決定の時代」の中心的役割を担っているのは,Academy of Neurologic Communication Disorders and Sciences (ANCDS)である.ディサースリアの領域においても,YorkstonやDuffyたちが中心となって積極的にevidence based practice(EBP)を推進し,臨床ガイドラインが提出されてきた.

 ところが,国内におけるディサースリアの領域では,Darleyらが築いた「診断の時代」でその歩みが滞ってしまった.私はかつてこれを,「空白の25年間」と呼んでいた.このため,当時の国内の言語聴覚士の多くは,1980年以降にアメリカを中心として進展し体系化された臨床的技術について教育を受けることもないまま,「ことばの体操」のような極めて古典的なアプローチを臨床で施行してきたというのが実態であった.国際的にはエビデンスに基づいて,新しい科学的なスタイルで的確にリハビリテーションを施行するとディサースリアという障害は何らかの治療効果が得られることが確証されつつある時代を迎えているだけに,このような国内の実態は非常に遺憾であった.

 こうした中で,私どもは,ディサースリア年間講座,ディサースリア治療技術セミナーなどの講習会を企画してきた.また,ANCDSに準拠したテキスト(ディサースリアの基礎と臨床,インテルナ出版,2006)を刊行し,Yorkstonらの国際的に定評のある教科書(西尾正輝(監訳・共訳,Yorkston, K. M., Beukelman, D. R., Strand, E. A., Bell, K. R. 著):運動性発話障害の臨床 ―小児から成人まで―.インテルナ出版,2004.)の翻訳を行った.もちろん,エビデンスを蓄積するための研究活動は欠かすことなく継続し,Duffyらの「Motor Speech Disorders」最新版ではNishioらの一連の研究が随所で紹介されている.

 こうした成果として,日本のディサースリアの領域は大きく変わった.米国と比較しても決して劣らないレベルの実力を有する臨床家が急増したのを実感している.  他方で,いくつかの問題も新たに浮き彫りになった.一つは,摂食嚥下障害に対する関心が高まるのとともに,ディサースリアと摂食嚥下障害の臨床が分断されつつある,という問題である.もう一つは,国内の臨床家の質的格差があまりにも大きく開きすぎたという問題である.そこで,こうした問題を解決すべく,「高齢者の発話と嚥下の運動機能向上プログラム(Movement Therapy Program for Speech & Swallowing in the Elderly:MTPSSE)を開発した.MTPSSEは,実施手続きが明確に規格化されているため,誰でも適切に予防・治療プランを立案し,実施し,ある程度同一レベルの効果が期待できる.すべてのクライアントに常に一定水準のサービスを提供可能なシステムの構築は言語聴覚療法の質を保証するための悲願であり,多くのブレイクスルーを経てここに完成した.

 私たちは,研究会発足から16年目を迎え,今,新たな路を切り開こうとしている.その歩みは15年前と異なる.もはや空白の25年を埋めて国際水準に追いつこう,とするものではない.誇りを持ち,世界を牽引しようとするものである.

 ヤバイほどおもしろく,斬新な臨床的情報に満ちた学術集会になることを期待したい.周囲の関心の高いようで,事前登録者数は736名であったという.

 最後に,この「日本ディサースリア学術集会」は,今回をもって当面は休会とすることが2018年5月の理事会で決定したことをお知らせ致します.今後は,いっそう質の高い臨床を提供できる臨床家の育成に焦点をあてます.2019年度は,かつての年間講座を内容を大きく刷新して15年ぶりに再現し,MTPSSEを中心として「ディサースリア長期講座」を開催致します.ディサースリア摂食嚥下障害の臨床は格段におもしろくるでしょう.担当する側も大変ですが,「一度だけ」のお約束で,私自身がほぼすべての講師を担当することをお引き受けいたしました.ご一緒に,大いに楽しみながら,成長致しましょう.

 ヤバイ!